平成も残り数ヶ月。新時代の幕開けとなる今年から、日記を始めようと考えた方も多いのではないでしょうか。
阪急電鉄の創業者・小林一三もまた、日記をつけた人でした。その日記を『小林一三日記』全3巻 (阪急電鉄, 1991年刊) で読むことができます。
小林一三のほかの著書と違うところは、日記であるために他人が読むことを想定して書いていなかったろうということです。
誰かに文章で何かを伝える時、わかりやすいように情報を取捨選択しますよね。他人に向けた文章は、「これを伝えたい」「こう読んでもらいたい」意識のもと、書き手によってダイジェストされたものです。この日記には、そこで削がれてしまうような細かなことも詰まっています。
調べたいことに関わる情報を求めて部分的に読んでも役立つ本ですが、一日一日を丹念になぞる読み方もまた面白いと思います。
小林一三はさまざまな顔をもつ人物です。鉄道・百貨店など人々の暮らしを支える事業から演劇・映画などの娯楽事業まで手がけたのですから、実業家としての顔だけでも多様です。加えて茶人・美術品収集家としての顔、当然家庭人としての顔ももっています。
日記にはそのそれぞれが入れかわり現れますので、各分野の情報が混在し、複雑です。日常の細々したことや、社会を観察し思いめぐらせたことなども書きつけられています。
けれどもそれらを読むにつれ、小林一三の思考にもぐり、その過ごした日々を追体験しているかのような心地になってきます。
生身の小林一三に触れ、親しみを感じる人もいるかもしれません。
小林一三を知りたいと思う人が、その人なりの小林一三像をつかむ助けになってくれる本だと思います。
日記の書かれた時期については、次のとおりです。
第1巻
・当用日記 (明治31, 33, 35-37, 39年) 25歳~33歳
・日々是好日 (昭和10年9月-11年4月) 62歳~63歳
・朝鮮・中国北部を覗く (昭和12年5-6月) 64歳
・訪伊使節日記, 蘭印使節日記 (昭和15年8月-11月) 67歳
第2巻
・我国の運命 (昭和20年1月-昭和23年12月) 72歳~75歳
第3巻
・我国の運命(昭和23年12月-昭和32年1月) 75歳~84歳
現在、逸翁美術館で展覧会「西洋ちょこっとアンティーク -1935年、小林一三の欧米旅行記から-」が開催されています。
副題の「欧米旅行記」とは第1巻に収められている「日々是好日」のこと。風景描写も豊富で、紀行文としても楽しめます。
展覧会をご覧になる前後に、ぜひ池田文庫に立ち寄って手にとってみて下さい。
販売 (分売不可) も行っています。
(司書H)