阪急文化財団ブログ

阪急文化研究年報第12号を発行しました

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 学芸員による調査・研究の成果を発表する『阪急文化研究年報』第12号を刊行しました。内容は以下のとおりです。

  • 仙海義之「博物館展示論(一)-「WHAT」何を展示するのか?「HOW」どのように展示するのか?」
  • 宮井肖佳「小林一三の目指した文化ネットワークとその意義(八)-「稲束家日記」から見る池田から生まれた交流」
  • 正木喜勝「阪神急行電鉄の新聞広告(一九一八~一九二〇)」
  • 竹田梨紗「連載(十二)逸翁美術館蔵「芦葉会記」(昭和二十七年)」
  • 令和4年度事業報告

 閲覧ご希望の方は池田文庫にお越しいただくか、お近くの公共図書館や大学図書館にお尋ねください。

池田文庫の本棚放浪記【第35回】阪急沿線情報誌 昭和後期篇 ~『阪急沿線』~

 現在、駅などで配布されている阪急沿線情報誌『TOKK (トック)』。日常的に阪急電車にお乗りの方はきっと目にされたことがあると思います。『TOKK』が誕生したのは19724月。今回ご紹介する『阪急沿線』は、197511月から19903月まで、一時期『TOKK』と並行して発行されていた情報誌です。

 

 『TOKK』は行楽・娯楽情報誌としての性格が強かったため、会社経営の基盤たる"鉄道"について、乗客や沿線住民とコミュケーションを図るPR誌の必要性が叫ばれ、『阪急沿線』は生まれたそうです。*

 『阪急沿線』は19904月に『Linea (リネア)』としてリニューアルし、やがて『TOKK』に吸収されます。現在の『TOKK』の中に『Linea』というコーナーがあるのをご存知でしょうか?『阪急沿線』はこの『Linea』ページのご先祖ということになります。何の気なしに手に取るフリーペーパーにも歴史あり、ですね。

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 さて、『阪急沿線』、内容をみてみますと、駅や電車関係のニュースが中心です。いくつか記事タイトルを拾ってみましょう。

 

「どんどん伸びるホームの屋根」(19766月号)

「長い電車で輸送力増強」(19772月号)

「高架化工事は各駅で順調に進んでいます」(19835月号)

「阪急電車はすべて冷房車 冷房化100%を達成」(19866月号)

「京都線特急に列車電話を設置」(19876月号)

 

 丹念に読んでいきますと、70年代から80年代にかけて、輸送力増強、駅業務の自動化、駅設備の拡充、高架化がドンドン進み、駅および駅周辺の風景が様変わりしていくのがわかります。

 一方で、車窓クイズ、読者からの電車関係の質問に答えるコーナーや、沿線で趣味やスポーツを楽しんでおられる同好会の活動の紹介などもあり、アットホームな雰囲気もある情報誌です。

 

 『阪急沿線』は、このたび約2,500件の記事索引の作成が完了しました。蔵書検索ページから記事タイトル等を検索でき、どんな記事が何年何月号に載っているかわかるようになりました。後継誌『Linea』の記事索引もすでに作成済です。

 

 調べものや、なつかしい沿線・駅の風景との出会いを楽しんでいただくのにご活用いただけましたら幸いです。

 

*阪急電車PR誌小史. 『阪急沿線』第50, 197912, p. 4

 

(司書H)

阪急文化アーカイブズ「絵尽し」の画像を公開

 2023年4月より阪急文化アーカイブズにて「絵尽し(えづくし)」の画像を公開しました。絵尽しとは、江戸時代に劇場などで販売された小冊子で、現代の公演パンフレットのようなものです。上方では「絵尽し」、江戸では「絵本番付」と呼ばれました。この呼び方からもわかるとおり、絵でお芝居の内容が紹介されています。配役のほか、場面の簡単な説明文が入ることもあります。

edks012-092.jpg1. 嘉永6年(1853)の絵尽し表紙

edks012-092p2_1.jpg2.『仮名手本忠臣蔵』の絵尽し(1の中身)

 観劇前に想像したり、観劇後に見返して思い出したり、そういった楽しみ方をしていたのかもしれません。また現代では、絵尽しは「役者絵」の考証にも役立ちます。役者絵で描かれた場面がどのような場面か、より詳しくわかる場合があります。

572-01_02.jpg3.『仮名手本忠臣蔵』五段目の役者絵

edks012-092p2_2.jpg4. 2の絵尽しにも3の役者絵と同じ場面が描かれている(着色部分)

 絵尽しの方には、「斧定九郎 与一兵衛をころし金をとる 翫雀」(青の箇所)「与一兵衛 さいご 友三」(緑の箇所)のように配役と場面の説明が入っています。今回は『仮名手本忠臣蔵』という有名な作品ですので、役者絵だけでも十分伝わるのですが、そうでない作品の場合は、絵尽しが役者絵をより深く理解する手がかりになることもあるのです。

 阪急文化アーカイブズでは、横断検索で「絵尽」と検索するほか、以下を選択してご覧ください。絵尽し748点の画像が閲覧できます(2023年4月現在)。
 検索カテゴリ:浮世絵・番付
 詳細検索の分類:番付/絵尽(絵本番付)

arc_e.jpg5. 阪急文化アーカイブズ検索画面

阪急文化研究年報第11号を発行しました

年報11号

学芸員による調査・研究の成果を発表する『阪急文化研究年報』第11号を刊行しました。

内容は以下のとおりです。

■論文

仙海義之「小林一三 ―「文化のプロバイダー」としての姿」

正木喜勝「箕面有馬電気軌道時代の新聞広告(一九一四~一九一八)
     ―沿線七福神詣と宝塚少女歌劇出張公演を例として―」

■資料紹介

竹田梨紗「連載(十一)逸翁美術館蔵「芦葉会記」(昭和二十六年)」

宮井肖佳「鈴木華邨筆「箱根日記」」

■事業報告


閲覧ご希望の方は池田文庫にお越しいただくか、お近くの公共図書館や大学図書館にお尋ねください。

 

池田文庫の本棚放浪記【第34回】一見さんも、お気軽に

 お隣の逸翁美術館で行われていた『ひゅうどろどろ怪奇まつり~歌舞伎に出てくるオバケだぞ』展が終了しました。展示期間中、池田文庫でも「お化け」をあつかった本の特集コーナーを設け、美術館でもそれを紹介してもらったところ、たくさんの方にお立ち寄りいただくことができました。

 ふだん池田文庫にお越しになる人は、阪急電鉄、宝塚歌劇、歌舞伎、民俗芸能などの中から、「池田文庫でこれを調べたい!」と目的がはっきりしている方が中心。今回のように、美術館帰りの方が、興味を持つ本とは・・・と注目しておりましたが、特集のお化けコーナーの次に人気があったのは、『別冊太陽』シリーズでした。

 『別冊太陽』というと、歴史・生活・文化・芸術などから毎号一つテーマをたくさんの図版と共に紹介する出版物で、ご存知の方も多いでしょう。

 こちらを置いている図書館は珍しくありません。ところが、これを図書として個々のテーマにちなんだ分類のもとに配架するのか、シリーズまたは逐次刊行物として、かためて配架するのか。図書館によって対応が分かれるようです。

 池田文庫では、このように『別冊太陽』シリーズをかためて配架しています。最初これを見たとき、個々のテーマで分類・配架した方が便利なのではないかと思っていました。ところが、「ここはどんな図書館だろう?」と池田文庫へぶらり訪れた方にとっては、このコーナーは手に取りやすい雰囲気が出ているようです。

 例えば書店や馴染みの図書館の新書コーナー。さまざまなテーマがぎゅっとひしめく棚は、自分の興味のあるテーマの本を探すとともに、背表紙を眺めながら新たに関心を向ける対象との出会いも楽しい場所です。

 池田文庫の小さな開架スペースのなかで、様々なテーマが横並びになっている『別冊太陽』の棚は、どうもそういう役どころを引き受けているようにと思っています。

 普通なら手に取って面白そうならとそのまま、購入または貸出という流れになるのでしょうが、池田文庫では貸出を行っていません。館内で読んでもらうことになります。そんなとき『別冊太陽』の美しいカラー図版中心の内容は、気軽にのぞきにきた人にも「ちょっと読んでいくか」という気にさせるのでしょう。

 これをきっかけに、意外にバラエティに富んだ池田文庫の蔵書へと、ぜひ興味を広げていただけるといいなあと、今は思うようになりました。

 長年、池田文庫にぶらりとやってきた来館者をとらえては、ついつい長居させてきた『別冊太陽』。いつのまにか600超のタイトルをもつ大きなコレクションになってきました。あれもこれもと手をのばしたくなる魅力的なタイトルが並んでいますので、たまに蔵出しして、手に取っていただけるようにしたいと考えています。

 


過去には宝塚歌劇の特集も

 

(司書H)