阪急文化財団ブログ

池田文庫の本棚放浪記 【第14回】~ナイト・カブキ~

 東京オリンピックまで一年を切りました。来年はいったいどんなお祭り騒ぎになるのでしょう。押し寄せる訪日客を当て込んで、各界では様々な計画が進行していることと思います。

 さて、先の1964年東京オリンピック時はどうだったのか。今回は、1964年10月の東京演劇界の様子をちょっと覗いてみたいと思います。

 

 まずは、歌舞伎座。

 昼夜の歌舞伎興行に加えて、「ナイト・カブキ」と称した深夜興行が行われました。なんと開演は夜の9時40分で終演は0時。オリンピック関係者を招待した貸切公演もおこなわれました。選手達も歌舞伎を楽しんだんですね。

 

 

 上は池田文庫が所蔵するナイト・カブキの公演プログラムです。日本語のほか、英語、フランス語の解説も併記して、訪日客を意識していることがよくわかります。

 演目は、第1部に「暫」,「楼門五三桐」,文楽の「櫓のお七」。第2部は赤坂芸妓による踊り「舞妓」。歌舞伎以外の伝統芸能も織り交ぜた構成でした。

 大向うのかけ声に、外国人のお客さんはびっくりした様子だったといいます。

 

 

 東京宝塚劇場は宝塚歌劇公演。専科・月組による「ユンタ」と「日本の旋律」です。

 1本目の「ユンタ」は当時宝塚歌劇団内にあった郷土芸能研究会(当時・日本郷土芸能研究会)が沖縄県八重山群島を取材し、この地方の芸能を舞台化したものです。ユンタとはこの地方に伝わる作業歌のことをいいます。2本目の「日本の旋律」はタイトルの通り、古今の日本の歌やメロディーを集めて構成したもの。

 どちらも日本独自の音楽や踊りで魅せる演目だったのは、外国人の観客が増えることを見込んでのことかもしれませんが、これを観て、日本の音楽の多様性に目を開いた日本人観客も少なくなかったのではないでしょうか。

 

 ちなみに東京宝塚劇場でも深夜興行がありました。長谷川一夫製作・構成・演出・主演の『東宝歌舞伎おどり』です。生憎、この公演プログラムは池田文庫にはありませんが、9時半から10時50分と、こちらもかなり遅い時間だったよう。歌舞伎座といい、劇場関係者はさぞや忙しい日々だったろうと思います。

 

 さて、来年のオリンピック開催時も、東京の演劇界は外国人のお客様を意識せずにはいられないと思います。

 50年の間に、外国人への日本のアピールポイントも変化してきました。その変化が、劇場でかけられる演目にも表れるでしょうか。来年の演劇界のライン・アップに注目です。

 

 

(司書H)