お知らせ

重要文化財「芦引絵」修理事業完了のご報告

重要文化財「芦引絵」は、「稚児物語」を題材に室町時代に描かれた全五巻の絵巻物です。
後崇光院の「看聞御記」には、永享八年(一四三六)に比叡山で五巻の芦引絵が作られ、さらに後花園天皇が、それを模写させた記録があります。本巻は本紙が薄く、長さが一定でないことから、それらを敷き写ししたものと考えられていますが、それらのいずれもが失われてしまった現在、唯一伝わる貴重な作品です。

今回の修理事業では、

  • 経年により発生した膠の接着力の低下による絵具層の粉状化剥落
  • 巻頭をはじめとして横折れが多数発生
  • 各本紙の継ぎ部分にに見られる糊離れ
  • 旧修理による悪影響部の改善
等の対策を五巻全部に実施しました。なお、本事業は文化庁の重要文化財(建造物・美術工芸品)修理、防災、公開活用事業費国庫補助を活用し、池田市からも補助を受けました。

修理完成を記念し、2025年12月17日~21日まで特別展覧会を開催します。詳細は以下をご覧ください。
修理完成記念特別公開 重要文化財「芦引絵」五巻 全巻展示

修理の概要

令和6年度の修理

  • 補紙の箇所に補彩を行いました。
  • 元の軸卷紙に新調した軸卷紙を継ぎ、本紙同様の裏打ちを施しました。
  • 本紙料紙を継ぎ合わせました。
  • 表紙裂、見返し紙は補修の上、再使用し、肌裏打を行いました。
  • 表紙裂、見返し紙を合わせて表紙の形に仕立てました。
  • 本紙に表紙、軸卷紙を継ぎ、軸首は元使い、軸木、八双、紐等は新調し、巻子装に仕上げました。
  • 五卷分の桐製太巻添軸、五卷入桐製屋郎箱を各新調し、羽二重の包裂に包み納入しました。
  • 五卷入桐製屋郎箱を包む風呂敷または紙製四方開きを新調しました。

令和5年度の修理

  • 折れ、亀裂箇所に折れ伏せを入れ、補強しました。
  • 美栖紙にて中裏打を行いました。
  • 混合紙にて総裏打を行い、仮張りし充分な乾燥期間をおきました。
  • 補紙の箇所に補彩を行いました。
  • 桐製太巻添軸、五巻入桐製屋郎箱の材料を用意しました。

令和4年度の修理

  • 旧肌裏紙及び旧補修紙の除去を行っております。本紙継ぎの解体が物理的に困難な箇所については解体をせず、現状の継ぎを温存することを決めました。
  • 本紙裏面の構造調査を行いました。
    → 裏打ち構造
    → 本紙裏面の相剥ぎ痕の確認
    → 透過光及び赤外線撮影を行い、下描き線や描き直し等を確認
  • 断片の取り扱いについての協議を行いました。

▲ 断片の様子

令和3年度の修理

  • 膠水溶液による絵具層の剥落止めが完了しました。
  • 本紙の汚れ除去を行いました。
  • 裏面処置の前に養生紙にて表面の保護を施しました。
  • 旧肌裏紙及び旧補修紙の除去を行っております。(令和4年度にも続いて行います)
芦引絵 修理前 巻第1 第35紙-horz
▲ 左が修理前、右が修理中の写真。旧肌裏紙や旧補修紙の除去を行っています。

令和2年度の修理

  • 写真撮影などを行い、損傷状態の詳細な調査を行いました。
  • 解体作業に耐えられるように料紙及び粉状化した絵具層を養生しました。
  • 膠水溶液にておよそ90%程度の剥落止めを行いました。
  • 令和3年度からの解体修理作業に移行するために必要な作業を行いました。
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▲ 白色絵具の粉状化剥落が見られる asibikie3
▲ 料紙の毛羽立ちが見られる