
明治以後、多くの博覧会が国内外で開催され、日本の美術工芸品に対する評価は高まりを見せていました。大阪・東京などにあった百貨店では、明治から昭和の初め頃にかけて、美術部を中心にさまざまな美術や工芸の展覧会が企画され開催されました。その中には、当時新画と呼ばれた日本画や、陶芸・漆芸・竹工芸などの工芸品などが含まれます。
昭和4年(1929)に開店した阪急百貨店では、同年に「阪急工美会」を結成しています。当時の在阪一流の工芸作家をさまざまなジャンルから集め、年に1度百貨店において発表の場を与えて、さまざまな工芸作品を世に送り出しました。阪急工美会を後援し育てたのは小林一三です。百貨店を「買っておいて損のない」「安くても良い」美術品を販売する場としてとらえていた一三にとって、一流の工芸作家による工芸品はまさに自身の考えを形にした作品だったことでしょう。メンバーには、好みものを作らせた漆工の三砂良哉をはじめ、鋳金の大国寿郎、陶芸家の和田桐山、竹工の山本竹龍斎などがいます。
古美術の名品に対する鑑賞を経て培われた小林一三の審美眼。その美意識をもって一三は、さらに同時代の画家や工芸作家達の作品をどのように見つめたのか。この展示では、明治から昭和にかけて、百貨店の美術展で活躍した近代の画家や工芸作家の作品を中心に、阪急百貨店に誕生した阪急工美会のメンバーによる作品も展示し、百貨店で花開いた一三を中心とした文化サロンで活躍した近代の美術家たちを紹介します。