本年2017年は、逸翁の没後60年にあたります。生前、美術館の設立を夢見ていた逸翁の遺志を継ぎ、逸翁が没した1957年に開館した逸翁美術館も同じく開館60年を迎えます。これを記念した展覧会を1年間を通じて開催し、逸翁が独自の審美眼で蒐集した作品を、ジャンルごと6期に分けてご覧いただきます。第一幕は「書」の作品です。
書の歴史は中国に始まります。中国を起源とする漢字は、様々な情報を伝えるための実用的な手段として用いられていましたが、やがて書かれた文字そのものを美的に表現したり、鑑賞するようになります。こうした「書」の文化は日本へ伝わり、中国の漢字のみならず、漢字をもとにした日本独自の文字である「かな」を生み出しました。かなの誕生は、日本の文化に変化をもたらし、特に和歌や文学作品に大きな影響を与えます。かな文字の柔らかく流れるような筆致は、それまでの中国の書とは異なった優美さが愛され、中でも平安から鎌倉時代に書されたものは「古筆」と呼ばれて、珍重されてきました。それらは近代になって、数寄者の間で茶の湯の掛物として用いられるようになると、さらに古筆の人気は高まり、逸翁もまたこうした古筆を集め、茶席で用いました。
この度は、こうした「かな・古筆」の作品の他、中国の書風を日本へ伝える「墨蹟」の作品も展示いたします。開館60周年記念展の幕開け、第一幕では書の美をご覧下さい。

