阪急文化財団ブログ

2016年度友の会観劇会Ver.2【永楽館歌舞伎ツアー】報告

7おまけ辰鼓楼

今回の観劇会は、阪急観光バスで、兵庫県豊岡市の出石永楽館まで遠出をしました。
暑さも寒さも、日本一、二を競う豊岡市。この日の気温は、最高が9度、夕方には5度・・・。
小雨が降ったりやんだりで、なお一層寒さが身にしみる日でした。

今回は、お芝居だけでなく、普段聞き逃しがちな歌舞伎ならではの「音」にも注目しましょう!ということで、まずは地元の青年会の皆さまが打たれる「おふれ太鼓」を見学しました。
そして開演30分前に演奏される「着到」は、履き物を脱いだり、席への移動で一番賑やかな時ですから、ちょっと聴き取りにくかったかもしれません。

1バス出石到着 2おふれ太鼓
さて、近畿最古の芝居小屋 永楽館の中へ入ると、明治期にタイムスリップしたような温かみのある小屋です。 なによりも、どこから観ても舞台が近い!中村壱太郎丈や上村吉弥丈が通られるたびに、打掛のふきが私の荷物を引きずらないようによけていました。近すぎ・・・。
3館内C 3館内B
そして、いよいよ役者さん全員が初役で挑まれる「信州川中島合戦 -輝虎配膳-」です。 片岡愛之助丈は、品位と威厳のある輝虎が、怒りにワナワナと震えるお姿を、そして、壱太郎丈のお勝は、器用にお琴を弾きながら詫びる健気な嫁を演じられ、吉弥丈の越路は、輝虎が運んだお膳を足蹴にする時、一瞬顔を背けて申し訳ないような表情をされたのが印象的でした。 絵になる場面がいくつもある古典です。 幕が閉まると、「砂切(しゃぎり)」を聴いて幕間へ。 地元の食材ばかりで作られた「葵」さん特製「永楽館歌舞伎観劇弁当」をいただきました。
4お弁当
次は永楽館歌舞伎名物「お目見得口上」。毎年大盛り上がりの口上です。吉弥丈の「ああ上野駅」出石バージョン大熱唱も聴かせていただきました!(永楽館未体験の方は状況がつかめないと思いますが・・・。) 次は水口一夫先生が喜劇を歌舞伎に書き替えられた「春重四海波(はるをかさねてしかいなみ)」。 幕あきから大爆笑で、愛之助丈は、高速で70歳まで歳を重ねた、ちょっと頼りないけどかわいいお爺ちゃん。壱太郎丈は、愛らしい娘さんから、艶のある中年、そして白髪のお婆ちゃん。ご両人が本当に仲睦まじく、大爆笑の後にジワッと温かくなるお芝居でした。 幕が閉まり、「打出し」を聴いた後も客席の拍手は鳴り止まず、歌舞伎としては珍しいカーテンコールがありました。 古典の「輝虎配膳」は往路のバス内で見どころをお話ししていましたが、わかりやすくて笑える「春重四海波」は観てのお楽しみということで、あえて何もお話しせずに観劇。この二本の組合せと名物口上に、参加者の皆さまにはとても楽しんでいただけました。
5豊岡市立美術館
終演後は、各自出石の町を散策。豊岡市立美術館 -伊藤清永記念館-の「歌舞伎衣裳展」などを鑑賞しました。また、ここには永楽館歌舞伎の第一回(2008年)と、第八回(2015)の絵看板も展示されていました。第一回が穂束とよ國氏、第八回はご子息の穂束宣尚氏の作品です。 阪急文化財団でも明治期の絵看板コレクションがあり、とよ國先生には種々ご教示いただいておりました。1点だけですが、とよ國氏のお父様の穂束信勝氏の作品も所蔵しています。 とよ國氏は、永楽館の他にも、南座、松竹座など多くの劇場の絵看板を手掛けられ、2014年に急逝されました。その年から急遽宣尚氏に代わられ、お父様の作風をしっかり継承されています。 お二人の作品が横に並べられたのを、とても感慨深く拝見しました。 最後のお楽しみは、復路のバスで抽選会!愛之助丈のサイン入り番附をプレゼントです。番附の「勧進帳」富樫の写真にサインをしてくださいました。 途中「道の駅 まほろば」でお土産を買い込み、19時過ぎに池田到着。 お芝居好きの方も、今では便利で快適な劇場に慣れていらっしゃると思います。現代人にとって、昔ながらの芝居小屋は少々窮屈で不便なこともありますが、舞台や役者さんとの実際の距離が近いだけでなく、「歌舞伎」が今よりもっと身近な存在であった時代にワープしたようで、もっともっと気軽に歌舞伎を楽しむきっかけとなれば嬉しく思います。そして、役者絵や絵看板など、当財団の所蔵する歌舞伎資料にもご興味が増していただければ、さらに嬉しく思います! 皆さま遠方まで、長時間お疲れ様ございました。 (学芸員T)