重要文化財修理事業報告
2022年03月24日
重要文化財「芦引絵」は、「稚児物語」を題材に室町時代に描かれた全五巻の絵巻物です。
後崇光院の「看聞御記」には、永享八年(一四三六)に比叡山で五巻の芦引絵が作られ、さらに後花園天皇が、それを模写させた記録があります。本巻は本紙が薄く、長さが一定でないことから、それらを敷き写ししたものと考えられていますが、それらのいずれもが失われてしまった現在、唯一伝わる貴重な作品です。
今回の修理事業では、
- 経年により発生した膠の接着力の低下による絵具層の粉状化剥落
- 巻頭をはじめとして横折れが多数発生
- 各本紙の継ぎ部分にに見られる糊離れ
- 旧修理による悪影響部の改善
等の対策を五巻全部に実施します。
なお、本事業は文化庁の重要文化財(建造物・美術工芸品)修理、防災、公開活用事業費国庫補助を活用し、池田市よりも補助を受けて実施しています。
令和4年度の修理
- 旧肌裏紙及び旧補修紙の除去を行っております。本紙継ぎの解体が物理的に困難な箇所については解体をせず、現状の継ぎを温存することを決めました。
- 本紙裏面の構造調査を行いました。
→ 裏打ち構造
→ 本紙裏面の相剥ぎ痕の確認
→ 透過光及び赤外線撮影を行い、下描き線や描き直し等を確認 - 断片の取り扱いについての協議を行いました。

▲ 断片の様子
令和3年度の修理
- 膠水溶液による絵具層の剥落止めが完了しました。
- 本紙の汚れ除去を行いました。
- 裏面処置の前に養生紙にて表面の保護を施しました。
- 旧肌裏紙及び旧補修紙の除去を行っております(令和4年度にも続いて行います。)

▲ 左が修理前、右が修理中の写真。旧肌裏紙や旧補修紙の除去を行っています。
令和2年度の修理
- 写真撮影などを行い、損傷状態の詳細な調査を行いました。
- 解体作業に耐えられるように料紙及び粉状化した絵具層を養生しました。
- 膠水溶液にておよそ90%程度の剥落止めを行いました。
- 令和3年度からの解体修理作業に移行するために必要な作業を行いました。

▲ 白色絵具の粉状化剥落が見られる

▲ 料紙の毛羽立ちが見られる