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池田文庫の本棚放浪記【第21回】~今昔たからづか~

 池田文庫が所蔵する宝塚歌劇関連資料の中には、タカラジェンヌやOGが執筆した本も含まれます。今回はその中から、冨士野高嶺著『今昔たからづか -花舞台いつまでも-』(1990年)をご紹介したいと思います。

 

 作者の冨士野高嶺氏は昭和3(1928)年に宝塚音楽歌劇学校(現・宝塚音楽学校)に入学。翌年に初舞台を踏んでから、昭和47(1972)年の退団まで、40年以上の長きに渡り宝塚歌劇の舞台を支え、退団後も日本舞踊の指導者として貢献をつづけました。

 

 冨士野氏が舞台以外の場所でみせた才能が、文才と画才です。『歌劇』などの宝塚歌劇団の機関誌で、たびたびその才能を発揮しました。この本も『歌劇』誌に掲載した宝塚における舞台生活に関する文章をまとめたものです。

 

 

 表紙を、本人による粋な絵が飾っています。文章にも絵にも共通しているのは、生き生きとして、ユーモアにあふれているところです。

 

 文章中に時折日記が引用されており、作者が日記をつけていたことがうかがえます。それが思い出を掘りおこすよすがとなっているのでしょう。今にも舞台のさざめき、生徒たちのハツラツとした声がきこえてきそうな臨場感があります。

 

 入学試験、予科生時代、初舞台、舞台中のハプニングなどのタカラジェンヌの通過儀礼はもちろん、尊敬する師、上級生・同期生との触れ合いから生まれた、ゆかいな逸話が盛りだくさんです。

 笑い話、失敗話、怒られ話、しみじみする話。

 登場する顔ぶれも、久松一聲、岸田辰彌、白井鐵造、天津乙女、門田芦子、奈良美也子、春日野八千代などなど、オールドファンにはおなじみの人々でいっぱいです。

 ゆきし日の宝塚歌劇の舞台裏の世界をたっぷり堪能できる本です。

 

 小林一三に似顔絵をプレゼントしたときの話も出てきます。このときの絵も小さくですが、掲載されています。プロはだしのとてもユーモラスな絵ですので、ぜひご注目ください。

 

 戦争という厳しい時代を乗り越えたOGの著書は、情報の少ない戦時中の宝塚歌劇団の活動について、貴重な証言を与えてくれる存在でもあります。『今昔たからづか』が、そうした本であることも注目したい点の一つです。

 

 

(司書H)